パワーハラスメント

実例で解説!部長が課長を飛び越えて平社員を叱るのはパワハラになるのでしょうか?

パワハラに苦しむ社員

直接、平社員にひどいパワハラをする部長のケース

独立行政法人に勤めるW部長(55歳)は、職場でも有名なパワハラ部長である。

W部長のもとに、新しくY課長が異動してきた。Y課長は、W部長がやっていた部門の仕事はまっかく未経験で、一から仕事をおぼえなければならなかった。

また、前任者のときから業務遅れが生じており、それを挽回するためにがんばらなければとY課長は焦っていた。

そんなY課長を尻目に、W部長はうわさのとおり部員をいつも怒鳴りつけていた。

「バカヤローこんなことでまともな仕事ができるか!やり直してこい」「こんな仕事に何時間かけてるんだ、このあほんだら!」「おまえらは給料が多すぎる」など、職場中に響き渡る怒声がやむことはなかった。

周囲からは「いつ自殺者が出てもおかしくない」と言われており、人事部門も問題視していたが、とにかく有能であることから、だれも口出しができないでいた。

あるときY課長の部下が提出した書類に、重大なミスがあることが発覚した。

Y課長は部とともにW部長のもとに行き、事の成り行きを説明して謝罪した。

例のごとく、W部長は烈火のごとく怒りはじめ「お前なんかいらない。今すぐ辞めちまえ!」と、ミスをした部下に向かって叱責した。

その場にいたY課長はそれを止めることができず、ただ下を向いて立ち尽くすだけだった。

その後、Y課長は部下に対して「すまない。あんな怒鳴られ方を、自分はどうすることもできなかった」とわびたが、部下は「W部長は病気みたいなもんです。気にしていないですよ」とY課長を気遣った。

その後、部下のミスの事後処理をめぐって、Y課長はW部長に再三報告を求められた。

特に厳しい叱責があったわけではないが、ほかの部下にも毎日のように怒声を浴びせるW部長に対して、Y課長は自分の無力感を深めていった。

そしてついに、Y課長は体調を崩して入院した。診断の結果は胃かいようで、手術が必要なほど深刻なものだった。

Y課長の妻は、「主人が胃かいようになったのは、W部長のパワハラが原因です」と人事部に訴えたました。

しかし、当のW部長は「自分は課員を厳しく叱ったことはあるが、Y課長を怒鳴りつけたことは一度もない。異動後、間もないY課長はまだ業務もわからないだろうから、かわりに自分が課員を指導したまでだ。それに、Y課長は一生懸命に仕事をして、自分としては評価している。パワハラをしたと言われるのは心外だ」と語った。




直接、平社員にひどいパワハラをする部長のケースを解説

自分が直接怒鳴られたわけではないめに、周囲の人から「あの人が怒鳴られている姿を見るのが耐えられない」という相談が入ることは、めずらしいことではありません。

このケースでも、Y課長自身は上司からパワハラにあっているとは思われず、むしろ自分を飛び越して部下がひどいパワハラを受けていました。この場合、Y課長はパワハラの被害者と認定されるのでしょうか。

2002年5月に愛知県豊川市職員の課長が自殺したのは、その上司のパワハラが原因だとして、ご遺族が公務災害を認めてほしいと裁判を起こしました(名古屋高裁 平成20年(行コ)第56号 平成22年5月21日判決)。

判決では、このケースにあるような出来事について、「これら上司の発言は、部下の人格を傷つけ、心理的負荷を与えることもあるパワーハラスメントに当たることは明らかである」としました。

その上で、「被害者の部下職員への叱責が、直接被害者である課長に向けられたものではなかったと言えるが、自分の部下が上司から叱責を受けた場合には、それを自分に対するものとしても受け止め、責任を感じるというのは、平均的な職員にとっても自然な姿であり、むしろそれが誠実な態度というべき」としています。

つまり、課長の目の前でその部下に対してパワハラを行えば、課長はその責任を感じてしまい、直接自分が叱られていなくても心理的負荷が重くなってしまう、つまりパワハラの間接的な被害者になりうる、と判断したのです。

また、上司である部長は、課長の能力をたしかに評価していましたが、それを直接課長に伝えたことはなく、課長のストレスが軽減したとは言えない、としています。

ひどいパワハラは、このように言われた当人だけでなく、周囲にも大きな悪影響を与えてしまいます。

当人同士が納得していればいいのではなく、職場全体への影響を考えながら部下指導をする必要があるのです。