パワーハラスメント

実例で解説!部下の態度が悪くてつい怒鳴ってしまったらパワハラ?

部下を怒鳴ってしまった上司

同僚を誹謗中傷する社員を注意した人事部長のケース

食品メーカーの事業所に勤めるSさん(51歳・女性)は、同僚女性Tさん(45歳)に対する誹謗中傷を、毎日のように会社のロッカールームで吹聴していた。

その内容は、「Tは以前から会社のお金をかなり使い込んで、行き場がなくなってこの工場に来た」「会社に食品サンプルの不正出荷をしている人物がいる」「人事担当者がドスで刺されると発言している人がいる」という、根も葉もないものだった。

この発言を問題視した人事部長のU(55歳)は、Sを呼び出して、この発言内容について1時間半にわたって面談を実施した。

ところが、Sはこの発言自体を「私はそんなことは言っていない。だれかが私を陥れようとしている」と完全に否定し、面談の最中も終始ぶすっとした表情でふてくされるような態度をとっていた。

真剣に話し合おうとしていたU部長も次第にイライラが募り、ついに「あのなあ、あんたがそういう発言をしたっていう証拠はもうとれているんだ!Tが使い込んだっていう証拠を持ってこいよ!」と怒鳴ってしまった。

それでも横を向いて無視をするような態度をしているSを見て、さらに怒りが増幅し「本当に俺は許さんぞ!もう不用意な発言はいっさいしないでくれ!わかっているのか?」と叱責した。

この会話の一部始終をSはボイスレコーダーに秘密で録音し、弁護士事務所に持ち込んだ。

音が割れるほどの大声で怒鳴っている様子を聞いた弁護士は、「これはひどいパワハラですね。

裁判で勝てるかもしれません」と話した。それを聞いたSは、翌日、自信満々で人事部に電話をし、「昨日のU部長の発言はパワハラだって、弁護士の先生から言われました。裁判を起こします」と言い放った。

その話を聞いたU部長は、まさか録音されているとは、とショックを受けた。

しかし、Sの行った中傷は会社としても許すことはできない。U部長は「裁判なんて起こされたら、今後、自分はどうなってしまうのだろう……」と、強い不安に襲われている。




同僚を誹謗中傷する社員を注意した人事部長のケースを解説

パワハラは、明らかに行為者側の性格や気質に問題があって、不条理に部下をおとしめようとしている場合もあります。

一方で、「相手に言わされてしまった」というケースも少なくありません。

このケースの場合、Sの誹謗中傷が許せないだけでなく、それを問いただしてもいっこうに反省しない相手に対して、思わず「パワハラをさせられてしまった」と言えるでしょう。

このような場合、裁判ではどのように判断されるのでしょうか。

2008年に、広島高裁で三洋電機コンシューマエレクトロニクス事件の判決が下りました(広島高裁松江支部 平成20年(ネ)第66号、平成20年(ネ)第109号 平成21年5月22日判決)。

その内容は、同僚の中傷をしていた社員に対して人事担当の上司が注意したところ、不遜な態度をとったため怒鳴ってしまったというものです。

第一審の鳥取地裁の判決では、上司のパワハラを認めて慰謝料など約300万円の支払いを命じましたが、控訴審では「たしかに上司の発言態度や内容は、被害者の人間性を否定するかのような不相当な表現で、従業員に対する注意指導として社会通念上、許容される範囲を超えている」としました。

しかし、一方で、「もっとも面談時、上司が感情的になって大声を出したのは、被害者の態度がふてくされ、横を向くなど不遜な態度をとり続けたことが多分に起因していると考えられる」とも指摘し、過失相殺として会社側に10万円の支払いを命じました。

つまり、「たしかにひどい暴言ではあるけれども、あなたの態度にも原因があるのだから、その分は責任がある」ということで、賠償額が大幅に減額されたのです。

パワハラは、怒鳴ってしまう行為者側にのみ問題があるのではなく、怒鳴らせてしまう被害者側にも問題があることを明らかにした裁判であり、画期的な判断とも言えます。

今後は「パワハラ被害者」を主張するだけでなく、「パワハラを呼び込まない」ために、従業員一人ひとりが自分の態度がどのような印象を与えているか、相手を怒らせていないかなどについて、気づいておく必要があることを示しています。