パワーハラスメント

実例で解説!メールでの叱責はパワハラになるのでしょうか?

メールでパワハラ?

成績不良の部下を叱咤激励するメールを部員全員に出した部長のケース

大手生命保険会社のI部長(49歳)は、もともとバリバリの営業マンで、社内でも優秀な人材として知られている。

現在、部下50人以上をかかえ、いそがしくも精力的に仕事を進めていた。

ある日、部下のK課長(45歳)から「自分の部下である係長L(男性・38歳)が、営業目標を大幅に下回っているにもかかわらず、自己評価をAにつけたりして困っている。提出書類も期限に間に合わないことが多く、指摘しても反省する様子もない。係長であればそれなりの自覚を持って仕事をしてほしいのだが、先日も会議に必要な書類を忘れてくるなど、やる気が感じられない」と相談を受けた。

たしかにLの成績は伸び悩んでいるが、本人はそれに対して懸命に努力しているふうでもない。

先日も自己評価シートの自由記述欄が空欄だったので、気になったI部長がLに直接「何か書かなくてもいいのか?」とたずねたが、「特にありません」と答えるだけで、仕事に対する熱意も感じられなかった。

ある日、K課長が部員全員に対して、営業成績を期限内に達成できるよう、激励のメールを出した。

その中には、Lに対する「かなり数字を下回っているので、もっとがんばってください」という文面が含まれていた。

これに対してI部長は、Lを含めた全員に対して返信を出した。

その内容は、「意欲がない、やる気がないなら会社を辞めるべきだと思います。当社にとっても損失そのものです。あなたの給料で業務職が何人雇えると思いますか。あなたの仕事なら業務職でも数倍の業績を上げますよ」と、Lを叱咤激励するものだった。

しかし、Lはこのメールに対して「部員全員に対して、自分の成績不良をさらし者にするのは、パワハラに当たると思います。こんなことがまかりとおるなら、裁判で訴えます!」と、激高して1部長に詰め寄ってきた。

自分の成績不良を棚に上げて、上司にこんなことを言うとは……と半ばあきれてはいるものの、実際裁判になったらどうなるのだろう、と不安に思っている。




成績不良の部下を叱咤激励するメールを部員全員に出した部長のケースを解説

成績不良や業務への態度について、I部長としてはなんとかしたい一心で叱責したのでしょう。

それにもかかわらず、I部長はLから「パワハラだ!」と言われてしまいました。

多くの管理職のみなさんは、「こんなことでパワハラと言われては困る」と思っていることでしょう。部下指導をどんな方法でしても問題はないと思っていませんか。

もちろん、部下の失敗やミス、素行不良などは正す必要があり、管理職の正当な業務です。

しかし、問題はその「方法」です。それは「メール」であることと、「その内容が部員全員に伝わっていた」ことです。

2005年に判決が出された三井住友海上火災保険上司事件では、メールによる叱責がパワハラかどうか、ある判断がなされました(東京高裁 労判914号 平成17年4月20日判決)。

その前年に東京地裁で出された第一審では、このケースにあるような「意欲がない、やる気がないなら、会社を辞めるべきだと思います」「あなたの給料で業務職が何人雇えると思いますか」などのメールを、対象になる部下だけでなく、部員数十名に送った行為について、「ただちに違法とするには無理がある」として訴えを退けました。

一方、東京高裁での第二審では、パワハラについて「被害者本人に対する叱咤督促する趣旨がうかがえ、その目的は是認することができるのであって、パワーハラスメントの意図があったとまでは認められない」としながらも、「人の気持ちを逆なでする侮辱的言辞と受け取られてもしかたのない記載などほかの部分ともあいまって、被害者の名誉感情をいたずらに毀損するものである」とし、不法行為(名誉毀損)であるとしています。

つまり、このケースの叱責の内容だけ見ればパワハラとは言えませんが、メールで部員全員に知らしめた行為は名誉毀損に当たるので問題である、と判断されたのです。

部下指導をどのような状況で行うべきなのかを考える上で、この判決は重要なメッセージを伝えています。

メールでの叱責と、それを部下全員に知らせて注意喚起をうながそうという発想は、指導を受けるべき当人にとって効果はなく、むしろ侮辱的な行為であるということを、マネージャーは肝に銘じておくべきでしょう。