パワーハラスメント

実例で解説!パワハラが原因でメンタル不調になったと言われたら…

パワハラでメンタル不調になる係長

真面目で几帳面な部下がパワハラ?で倒れたケース

大手メーカーに勘務するGさん(31歳)は、入社12年目のベテランの女性だ。

まじめで几帳面な性格の抻ち主で、上司や先輩からは「責任感が強く、指示どおりきっちり仕事をする」と評判だった。

あるとき、取引先企業に約1年に及ぶ長期出張を命じられた。新しい勤務先は自宅から遠い場所にあり、通勤時間もそれまでより往復で2時間も増えてしまった。

加えて、新しい職場は業務改革のまっただ中で、長年、経理担当でならしたGさんは、その経験を活かすというよりは、新しい社内経理システムの不具合を見つけ、システム開発の委託業者に報告するという、まったく未知の仕事に取り組むことになった。

社内の会議で、社内システムの責任者であるH氏(45歳)から、連日、「報告書はいつできるんだ」「同じことを何度もやるな」「お願いしたことを期限内にやらないのは最悪」など厳しい指摘を受けた。

残業時間も月80時間を超えることが数力月続いた。

出張して半年過ぎたころ、社内会議でH氏から「Gさんの仕事が遅い」と指摘された。

その上「もう元の会社に帰っていいよ。使いものにならない人はうちはいらないから」と言われ、大きなショックを受けた。その翌日から2日間、会社を休んでしまった。

その後、Gさんは心療内科を受診し、うつ状態と診断された。

H氏にそのことを報告して業務量の調整を申し出たが、H氏は「ほかの人はそれぐらいの業務をかかえてやってるよ。今は人がいないから、やれるだけやって」と言うばかりで、結局、業務量は変わらないままだった。

その後、Gさんは元の会社の人事部に、「すぐに元の仕事に戻りたい。うつ病の治療中で、この仕事を続けるのは無理です」と訴えた。

「代わりの人が見つからない彑昃れないので、3ヵ月ほど待ってほしい」と言われ、もう少しでこの苦しい状況から解放されるとGさんはホッとした。

ところが、3ヵ月後、「システムの拡張計画が決まったので、出張期間を延長することになった」と告げられた。

業務量が改善するどころかさらに残業が多くなり、Gさんはとうとう倒れ、その後、休職することになってしまった。

真面目で几帳面な部下がパワハラ?で倒れたケースの解脱

このケースは、2008年に判決の出たトヨタ自動車ほか事件(名古屋地裁平成18年(ワ)第1736号、成20年10月30日判決)をモデルにしています。

問題点は大きく分けて三つあります。




①部下指導の表現方法

H氏は、Gさんの実質的な上司として、Gさんへの業務指示・命令をする立場でした。

そのH氏が行っていた、連日「報告書はいつできるんだ!」「同じことを何度もやるな」という指摘については、この判決内でも「この上司がだれに対しても厳しい上司であり、また被害者の仕事の緊急度の高さから、しばしば叱責と評価できる厳しい指示や指導を行っていた」と指摘されています。

とは言うものの、「作業期限に間に合わないという事実がある以上、叱責する正当な理由がある」として、日常的なパワハラがあったとは認めていません。

一方で、「使いものにならない人は、うちにはいらないよ」という発言については、「その表現は過酷でパワハラと評価されても仕方のないものである」とし、その表現方法について一石を投じています。

ここに出てくる発言は、「バカヤロー」「給料泥棒!」「やめちまえ」などの暴言にくらべると一見軽いように見受けられます。

また、「同じことを何度もやるな」など、要領の悪い部下に効率アップをうながすための「叱咤激励」ともとれる内容が含まれています。

しかし、「うちにはいらないよ」なども含め、よく見ると発言は「批判的」でかつ「否定形」です。

そして、否定するばかりで、改善方法など具体的なアドバイスにあたるものは見当たりません。

「ダメーダメー」ばかり言われていると、部下は自分の判断で仕事ができなくなります。

仕事を否定された部下はどんどん自信をなくし、「今度は何を言われるだろうか。上司に叱られない言い回しはなんだろうか」と、本来業務とはまったく関係のない部分にエネルギーを割くことになります。

その結果、ますます仕事が遅くなり、効率が悪くなるという悪循環が生まれてしまいます。否定するばかりでは、部下指導とは言えません。

②部下のストレス状態の見極め

1ヵ月の残業時間が80時間を超えていて、しかも数力月にわたっているとなれば、心身のストレス状態が極限に達していると言わざるをえません。

これは「過労死ライン」と呼ばれ、日常的に睡眠時間が5時間を切ってしまい心身に悪影響を与えることが指摘されています。

このような状況を放置すれば、「会社の安全配慮義務違反」を問われます。

加えて、Gさんは、通勤時間が往復で2時間も増えています。部下のストレス状態は、単に業務量そのものだけでなく、転勤や出向などで勤務地や仕事内容が変わったことによる負荷も考慮する必要があります。

この判決でも、実際の労働時間だけでなく、その通勤時間や仕事環境の変化に相当の負荷があったと指摘しています。




③体調不良後の業務量の調整

Gさんから「業務量を減らしてほしい」と言われていたにもかかわらず、H氏は「みんなそれぐらいやっている」とその状況を放置しました。

しかも、元の会社の人事部は、「3ヵ月待ってほしい」とGさんに期待させておきながら、反対にさらなる出張期間の延期を伝えています。

その結果、さらに具合が悪くなってしまったとなれば、出張先の会社はもちろんのこと、元の会社も「何の措置もとらなかった」と言われても仕方がありません。

トヨタ自動車ほか事件でも、被害者が長期出張を解除して元の会社に戻してほしいと、所属元の会社に申し入れています。

このように、被害者に過重労働による負荷がある状況では、「それを軽減したり、健康状態に注意しながら援助したりするべきであったのに、それをおこたったことは安全配慮義務の不履行がある」としています。

業務量の調整は、あくまでも本人に合わせて行うべきものであり、ほかの人とのバランスを優先して本人の状況を考慮しないようでは、後々大きな問題になってしまうのです。

さらに、長期出張の延長を告げたことが、「被害者の精神面に大きな負荷を与えた」ことを認め、業務量の調整や期限の見直しなど、必要な措置を行わなかったとして安全配慮義務違反があったと指摘しています。

このように、従業員からメンタル不調の訴えがあった場合には、具体的な改善を図らなければ、会社の責任を問われてしまうのです。

この判決では、結局パワハラとメンタル不調の関係については具体的な因果関係を認めていませんが、長時間労働とあいまって過度に厳しい叱責を行うことで、パワハラで訴えられるケースはますます増えていくと考えられます。

そしてその中で、長時間労働プラスメンタル不調の関係が明らかになれば、精神障がいの労災が認められることになるでしょう。